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naohiga/イラストレーター「20代、必死になった時間の実りは大きい」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第26回は、イラストレーターをされているnaohigaさんです。

職業:イラストレーター
保有万年筆:3本

溢れ出すクリエイティビティの先を探して

イラストレーターあるあるだと思いますが、小さいときから絵を描くのは得意でした。でも、絵を職業として考え始めたのは、大学を卒業して、グラフィックデザイナーとして働いてからなんです。

私は山形県鶴岡市の出身です。学生の頃から、八文字屋で『ロッキンオンジャパン』(ロッキング・オン)を発売日に買うほどの音楽好き。当時は原宿系がブームで、雑誌が輝いていた時代でした。『CUTiE』(宝島社)、『Zipper』(祥伝社)などのハチャメチャな感じが好きだったんですね。

美術の授業も大好きで、絵を描くことも大好きだったんですが、絵を仕事にする=画家や芸術家というイメージしかなく…。先生や友達から「美大や芸大を目指さないの?」と聞かれても、言われる手前で「ないない」と答えていました。

周りに絵を仕事にしている大人のサンプルがいないから、なれるものが思いつかなかったんですよね。でもOLとか性格的に無理だろうと思っていたし、謎のクリエイティビティみたいなものも私の中にあって(笑)。ただそういう自分と、その先にある職業を結び付けられませんでした。

10代の私が出せる最大限の答えがインテリアでした。選んだのは住居学科です。ですが、いざ大学に入ってみると「建築家になりたい」と夢見て入学してきた子たちとの差を目の当たりにしました。すでに、いろんなことを知っているし、提出する課題の出来も違う。私の気合いとまったくの別物。その差は歴然でした。

建築に情熱を傾けている人に私は絶対に敵わないし、そこまでの情熱が自分にはないことにも気付かされました。一生懸命考えて決めた道ではあったけれど、目指したい方向ではなかったんです。でもそこでヘコまなかったのは、プレゼンボードを作ったときに、私が一番うまいと思えたから。「これだ!」と思いました。作品そのものは劣っていたかもしれないですが、ビジュアルとイラストで伝える力はあると気づきました。感覚的に私はこっちだったんだって思えたんです。

職業イラストレーターが気に入っている

大学を卒業して、グラフィックデザイナーとして働き始めました。私が就職した事務所は、広告デザインを主としているところで、大手メーカー企業の仕事をしていました。そう聞くと、大きな仕事のように思われるかもしれませんが、私が担当していたのは、文字詰めなどの細かい作業。いちからグラフィックデザインを学んでいきました。

途中、転職も経験し、7年ほど会社員として働きました。その間も絵は趣味で描き続けていました。とくに初期はコンペに出すこと30回以上。試行錯誤し過ぎて、二、三度、くじけたこともあったんですが、自分の好きな絵、得意な絵が固まってきたタイミングに、運良くラッキーが重なったんです。

私が描きたいと思っていた線画は、日本より5年ぐらい前に海外のインディーズバンド周りで流行り始めていました。ZINE(自由なテーマで作成した冊子や印刷物)を作っている人たちの中でブームが起こっていて、これは日本でも流行るのではないかと、直感的に感じたんです。それで思い切って個展を開くことにしました。

カフェで開催したのですが、たまたま出版社の方が見に来てくださり、雑誌の特集を任せていただくことに。「なんて言ったの!?」というぐらい信じられなかったんですけど、それをきっかけにイラストレーターとしてデビューすることができました。

30歳ぐらいで独立したので、遠回りはしています。だけど、グラフィックデザイナーとして働いたからこそいただけている仕事が多いとも感じていて。こう描けば、レイアウトしやすいのではないかとか、線の太さもデザインに邪魔にならないようにしようとか、前職でやっていたことを元に自然と描いているんですよね。

「私の絵を見て!」というより、「職業イラストレーター」が私は気に入っています。修行時代は辛いこともあったし、弱音も吐きました。でも若いうちにトントン拍子に成功していたら、嫌なやつになっていたかも(笑)。本業の合間に徹夜してでもコツコツやってきたからこそ、プロとして仕事と向き合えているように感じます。

 過去を絵で振り返ることはない

出かけるときに、手に収まるぐらいのノートとペンは、持ち歩いています。電車を待っている間であったり「暇だから絵を描こう」って感じで、ササッとそのときに目に入ったものを描いています。とくに誰かに見せるわけでもないので、ポストや鳥であれば、2、3分ぐらいかな。自分が楽しく描ければ、いいんですよね。

 

うまく描けたら、写真を撮ってSNSに。そしたら永久に残るし、満足できれば、ノート自体は捨ててしまいます。あまり過去を振り返るタイプではないんです。卒業アルバムもとっておいてないですし、SNSをやり始めたから、写真も撮るようになりましたが、それがなければ、多分写真も撮らない。思い出話しは好きなんですけど、絵や写真で振り返ることはないかもしれません。

絵を描くのも「残しておこう」というより、「時間があるから、一杯ビールでも飲んで行くか」 ぐらいの気持ち。描いているときに楽しければ、大満足。自分の描きたい気持ちを優先に、その時間をエンジョイしたいと思っています。だから、わりと刹那的な感じで描くことが多いです。

あまりものに執着しないほうですが、昔から洋服だけは捨てられません。仕事と関係なく楽しめるものというのも大きいのかな。あとは食器も。今、手放せないものといえば、食器のほうが上かもしれません。

万年筆特有のインク溜まりが好き

万年筆との出会いは大学入学記念にいただいたペリカンの万年筆です。まだ子供だったので、好きに絵を描いたりしてダメにしてしまい、それ以来、万年筆とは疎遠になっていました。

その後、グラフィックデザイナー時代にPILOTさんの会報誌を担当させていただく機会があり、自分で安価な万年筆を買い直しました。イラストレーターとして独立後、PILOTさんと出会い直したときに「PILOT/ライティブ」を購入し、そこから4年ほど使っています。

マットブラックの軸のものをメインで使っていて、あとの2本はサブ用。インクは色雫のカートリッジのタイプを。3本あるライティブの万年筆には、それぞれ違うインクを入れています。インクがなくなる度に「次はあの色にしてみようかな」という感じで楽しんでいます。2000円ほどで購入できるし、気軽にいつでも使えて、すごく気に入っていますね。

仕事はiPadを使っているんですが、PILOTさんのお仕事で久しぶりに万年筆で絵を描いたのは、楽しかったです。アナログ特有の予期せぬインク溜まりとか、iPadで描くのでは出せない味がおもしろい。ムラがあっても、それもまたかわいいです。

日本らしさを表現していきたい

2023年の秋から京都で暮らしています。京都にいると「日本らしさ」を感じる場面が度々あります。パッと道を歩いているだけで、小さい庭のある町家があったり、古さをナチュラルに残しているお店があったり。外から京都に憧れてやってきた人が、和を大事にしながらも、ずっと同じスタイルではなく、新しさを提案している様子を見ることもできます。

現代の日本人である私が、日本でどういうイラストレーターとしてやっていくのか。日本らしさってなんだろうということを考えています。PILOTの色雫が好きなのも、日本の情緒ある名前がついていることが大きいですし、「日本人としての意識」を高めていけたらいいですね。

まだちょっと精神的に追いついていない部分があるので、年を重ねながら、極めていきたいと思います。 

お気に入りの1本:PILOT/ライティブ

メモをとるのも、外で絵を描くときも愛用。万能な1本です。

PROFILE

naohiga

1983年生。大学卒業後、グラフィックデザイン会社勤務ののち、フリーのイラストレーターに。雑誌やWeb媒体、アパレルブランド、企業媒体等を中心に活動。


Instagram: @naohigaillustrator

 

(構成・文/中山夏美)

 

 

 

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